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【読み物】パラレルワールド風

ややシリアス?
ニコニコ動画の幻想入りだとか現代入りが流行った頃にひそかに書いてみたもの。
パラレルワールド風


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「おつかれさん。もう今日は上がっていいよ」
「はい、店長。後はお願いします。お先です」
カンカンカンと薄い鉄の階段を下ると、私の一日が終わる。そしてかったるく長かった一週間も。
「よっと」
 階段の一番下から数えて二段目の板は、踏むとべコンと底が抜けそうになってひやひやするからこうして飛び越える。
 慣れとは恐ろしいものだ。もうすっかりと体にこの癖が染み付いてしまっている。
「―――雨……やっぱり降らなかったなぁ」
 家を出るとき耳にした朝の気象予報。
『今晩から雨が振るでしょう。お出かけの際は傘を忘れず』だなんて逼迫してお天気アナは言っていた。
 まったくもって「ここ」の天気予報は期待できない。だから私は手提げカバンに折りたたみの傘なんて入れていないのだ。
 暗くなった路地に点々と付いた街頭に照らされながら、夕飯を買いにコンビニへと向かう。
「ったく。もうとっくに交代時間は過ぎてたっつーの」
 もともと今日は日勤だったはずだ。しかも店長が「雨の日はキャベツが売れる」だなんて変なジンクスを信じ込んでいるために、
 朝早くから荷出しと陳列で私の腕は棒のようだった。
 おまけに夜勤の人のシフト都合で私の勤務時間は大幅に伸びることになった。そんなもんバイトの私に押し付けるな。
 社員がやれと以前の私なら文句の一つでも言っていたのだろうが、情けないことに今はこうして一人、虚空に向かってボヤくことしかできない。
 バイト代がその分割り増しになってくれるのが唯一の救いだ。
 ハァっと吐く息が白く、手に一時の暖かさを与えてくれる。
「うぅ……こんな時間になるならもっと厚着してくればよかったかなぁ……」
 急なシフト変更は何も今日に限ったことじゃないのに。これじゃあまだまだ私も読みが甘いと素直に認めざるを得ない。
新しいコートが欲しいけど、今のバイト代じゃ生活費以外の余裕なんてありっこない。
 今日も日が沈み月が出る時間までヘトヘトになるまでこき使われ、蛇口をひねっても三分はお湯が出てこなかったり、
網戸の滑りが悪くてキィキィ音がしたりと、あちこちガタがきている家賃四万円台のボロアパートへと帰るところだ。
 大家に嘘を言って学生の振りをして住んでいるため贅沢は言えない。帰る家があるだけでも幸せだと思わなきゃ。
バイト帰りにコンビニに立ち寄るのも私の習慣の一部となっていた。
最近は日中の時間も短くなり、オレンジ色のキャップの付いたペットボトルが目立つようになった。カイロ代わりに一本買って行くのも悪くない。
 それにしてもコンビニのおでんというやつはどうしてあんなにも美味しそうなのだろう。
 いや、実際美味しいのだが白い湯気とよく味のしみ込んでいそうなあのいい匂いにはついついそそられてしまう。
惣菜コーナーと明日の朝のおにぎりをいくつか物色する。
このコンビニは十時にならないと商品の補充を行わない。従って三十分前の現時点では昼間の残り物しか置いてない。
いいんだ。残り物には福があるって誰かが言ってたから。そう自分を励ましてお惣菜とおにぎりのコーナーに向かう。
 おっ、卵かけご飯味のおにぎりとは珍しい。明日の朝はこれにしようかな。
そのまま壁際の飲料コーナーを通る。
 ガラスの戸に手を掛ける前に、一旦レジのほうをチェックするのを忘れない。
大学生くらいだろうか。ヒョロッとしたメガネのバイトが暇そうに突っ立っている。
(しめたっ。いつもの口うるさいオバハンじゃない!)
 揚々とビールとチューハイの缶を手に取り、カゴへと放り込む。
まったく……お酒は二十歳からだなんていったいどこのどいつが決めた法律なんだか。
自由に飲みたい物も飲めないなんて、まだまだこの土地は暮らしにくい。
まぁ二十四時間いつ行っても開いてくれている店の存在はありがたいのだけれど。
やっかいなのが私が酒を買おうとすると学生証を見せろだとか免許を見せろといつも口うるさく注意してくるオバサン。
本当は注意されたのは一回だけで、それ以降はお酒を買うのに躊躇していたのだが、
この時間帯だとパートに入っていないらしい。これは思いのほか大きな収穫だろう。
このチャンスに買い溜めしておこうと六本入りの缶ビールもカゴに入れ意気揚々とカウンターへ向かう。
 私の他に客はいない。
 ピッピッとレジ打ちの音だけが店内に響く。
「千五十円になります」
「ねね、そこのおでんの大根一つサービスしてよおにーさん!」
「えっ? ……いや僕、アルバイトなんで……」
 途端にオロオロと挙動不審に陥る店員。
つれないなぁ、冗談だってのに。機械みたいに突っ立って客と必要以上の会話をしようともしない。
コンビニにそういったものを求めるほうがきっと筋違いなのだろうが、なんというか外の寒空と一緒で温かみを感じられず虚しさを覚える。
さっさと会計を済ませ店を後にした。
ヒュゥ、とつめたい風は瞬く間に手の温度を奪う。思わず縮み込みそうだ。
あとはひたすら早く家に帰ることだけを考えて足を速めた。「ただいま」
 無事家に着くとなんだかんだでほっと一安心する。我が家とはそういうものだ。
返事は当然無い。あったら大声を出して警察を呼ぶことになるだろう。
昔から一人暮らしをしていたおかげか寂しさはさほど感じない。
 ……あの土地が恋しくなることは山々だけど。
 コンビニ袋からお弁当と缶ビールを取り出す。ついつい新商品の文字につられて缶チューハイを買ってしまったが、
まずはビールからってもんだろう。
「あっ! あのメガネ割り箸忘れたなっ!?」
 袋の底から出てくるとばかり思って覗き込んだが割り箸は出てこなかった。
つまりは一旦座ったにも関わらずもう一度立ち上がり、奥の戸棚からMY箸を取ってきてまた着席し、
食べ終わったらつめたい水に手をつけて箸を洗わなければならないということを強いるわけだ。この現実は。
消費カロリーにして5cal。ストレス指数40ってところだろう。
「あんのメガネ……次あったら私のスペルで――――――あっ……」
 余計なことを考えるのはやめよう。何よりもお腹がすいた。
「……、」
 コンビニ弁当というものはどうしてこう、時間が経っても色鮮やかさを保っていられるのだろう。
保存料だとかなんとかをふんだんに入れているから、と前に教わった気もするが、まぁおいしければなんだっていい。
グビグビと早くも缶ビールを一本空けてしまう。
続けて袋からチューハイを取り出す。ラベルにはマイナス何度で凍らせたなんたらと謳い文句が載っているが、
 別に私にとっては製造方法などなんであろうと構わない。元々この土地の酒にはこれっぽちも期待なんてしていない。
安っぽいデザインでジュースみたいな酒のわりに馬鹿みたいに値段が高い。私の好きな日本酒やら焼酎なんて高額すぎて手が届くはずがなかった。
昔宴会をよく開いていた頃は水のように飲んでいただけに、もう少しありがたみをもって飲んでいればよかったかなとは思う。時々。
「―――あの頃が懐かしいなぁ……」
 ちゃぶ台に置かれた写真立て。いつだったか仲のいい連中とつるんで撮った集合写真だ。
緑豊かな土地の景色をバックに、私はその中央で馬鹿みたいに口をあけて笑っていた。
これが手元に残っている中で、私がそこにいたことを証明する唯一の品。
あの土と風の匂いはここでの生活ではまず味わうことができない。胸焼けしそうな排ガス、汚染された空気。何をとっても最悪だ。
もう一度あの頃の私に目を落とす。
今となってはもう着ることもないであろう、真っ黒のエプロンと大きな黒い帽子。髪はまだ染める前でとびきり明るい色をしていた。
「………明日もバイトだ。もう寝なくちゃ」
そのまま写真立てを前に倒した。
箸を洗うのはもう明日に回そう。


私の名前は霧雨魔理沙。
かつては遠く離れたとある場所で普通の魔法使いを名乗っていた。
そう――――――私たちの幻想はあの日、終わったのだ。

(continue?)





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