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メリーさん(オリジナル)

東方関係ないオリジナルです。
ワンドロー+αでした。
『わたし、メリーさん。今公園にいるの』
 夜の十時を回った頃だ。
 サッカーの中継も終わり、そろそろ風呂でも入ろうかと腰を上げようとした時、壁に備え付けてある電話が鳴った。
『はい? どちら様ですか?』
 男はやや驚いた様子で答えた。
 受話器の奥から聞こえてきた声には聞き覚えがなく、それも七から八歳くらいの女の子の声だったからだ。
「もしもし?」
 しかし、電話はそこで一方的にガチャリと切れた。
 男はもう一度壁掛けの時計に目をやった。確かに針は十時と十五分を指している。
「何だったんだ今のは。間違い電話かな?」
 妙だな、と男は受話器を置くとそのまま腕を組んだ。こんな時間にメリーと名乗る少女が公園から電話をかけてきた。もちろんそんな名前の子は姪っ子にもいない。
「ひょっとすると迷子か? いや……」
 男は顎に手を置くと眉間にしわを寄せた。
「だとしてもうちにかかってくるのはおかしな話だ」
 迷子にしては不安がる様子でもなかった。まるでクスクスとしのんで笑っているかのような声だ。
「だいたいどこの公園だ? 公園なんかそこら中にあるじゃないか」
 そうこう考えているうちにまたもや電話が鳴った。
「はい、もしもし?」
『わたし、メリーさん。今タバコ屋さんの角にいるの』
 声は案の定、先ほどの少女のものだった。
「お嬢ちゃん、うちに何の用かな? お父さんとお母さんがきっと心配しているよ。さぁ早く帰――」
 だが言い終わる前に電話は切れてしまった。受話器を戻すと男は呆れ混じりに首を振る。
「やれやれ、こりゃあ悪いいたずらだな。そういうのが流行っているのか? まったく」
 心配して損をした、と男は大きく息を吐いた。今頃電話の向こうの相手はケラケラお腹を抱えて笑っているのだろう。
 もし次かかってきたらひとこと文句でも言ってやろうと、男は風呂用のタオルをソファーに投げ電話がかかってくるのを待ち構えた。
 そして数秒後、思惑通り再び電話が鳴った。
「はい、もしもしっ」
 万が一別の電話であった場合に備え、しかしやや強めに電話に出る。
『わたし、メリーさん。今駐車場の前にいるの』
 きた、と確信すると同時に男は電話の相手に向かって声を荒げた。
「君っ! ふざけるのは止めにしなさい! そうやっていたずらばかりしていると、お父さんに言いつけるからな」
 小さな子にはこれが一番効くだろうと、男は胸の内ですぅーっとしたまま少女の出方を伺った。そこでごめんなさいと謝ってくれば、今度は優しくなだめてやるつもりだった。
 だが電話はそこで切れていた。ツー、ツーとコールの切れた音だけが虚しく響き渡る。
「驚きのあまり切ってしまったかな? しかし、最近の子供はしつけがなっていないな。親はいったい何をしているんだか」
 とはいえあれだけ言ってやったんだ。流石にもう次はかかってこないだろう、とソファーのタオルを手に取ろうとして、男の手が止まった。
「……待てよ?」
 ――場所。
 少女の伝えてきた場所がふと頭を過ぎった。
「最初に公園、そしてタバコ屋、最後に駐車場……」
 男は近所の風景を思い出すと自然と口に出しながら、
「まさか、偶然だろう。公園の近くにはタバコ屋くらいあるだろうし、それに駐車場こそいくらでもある」
 確かに男の住む家の近くには小さな公園があった。ブランコと滑り台とベンチくらいしかない殺風景な公園だ。
 男はそのままテーブルの上の灰皿に目を落とした。贔屓のチームが大量得点を入れられイライラしていたのだろう。山積みになった吸い殻とクシャクシャに丸められた箱が無造作に捨てられている。タバコは公園から数歩先にある店で買ったものだった。
「近所の子のいたずらか? それなら話は通じる。電話番号だってタウンページや町内の連絡網を見れば載っているはずだからな」
 それはそれで問題だ。是非とも今度の自治会で話をさせてもらうとしよう。
 男は念のため、カーテンの間から駐車場を覗いた。何せ愛車にいたずらをされたらそれこそたまったもんじゃない。
 が、車の付近に人影が見えないことを確認すると、男はホッとした様子で胸をなで下ろした。
「さて、明日も仕事だ。子供のいたずらにいつまでも構っていられるものか。さっさと風呂に入ってしまおう――」
 そう言った矢先にまたもや電話が鳴った。
「……チッ」
 温厚な男も流石に頭にきたのか、舌打ちをすると勢いよく受話器を取り上げた。
「おい! いったい今何時だと思っているんだ!? いい加減にしないと――」
『あなた!? いったいどうかしたの?』
 電話の声はいたずら少女ではなく、男の妻のものだった。
 男はしまった、と慌てた様子で取り繕う。
「いや、その、……すまない。ついさっきまで悪いいたずら電話がかかってきていてね。それでつい怒鳴ってしまったんだ。それで、どうしたんだい?」
『なるほど、そういうことだったのね。ええと、帰りの電車が人身事故に遭ってしまって動かないの。あなた、お夕飯は?』
「ああ、それなら冷蔵庫の中にあったもので済ませたよ。そんなことより大丈夫か? 駅まで迎えに行こうか?」
 肩に掛けたタオルを再度放り投げ、受話器を首と肩で挟むように持ち直すと、男はポケットをまさぐり、財布から車の鍵を取り出す。
『たぶん大丈夫よ。もうしばらく待てばきっと動き出すもの。あなただって明日も早いし、それにそろそろお風呂の時間でしょう?』
「はは、ちょうど今から風呂に行こうと思っていたところだよ。そうか、それなら良かった。気を付けて帰ってくるんだよ」
『もう、本当最悪だわ。今日は早く帰って一緒に試合を見るはずだったのに』
「それは残念だったけど、まぁ次の機会があるさ。それよりも今は早く帰れることを祈ってるよ」
『しょうがないわね……あっ」
 電話を切る直前で妻が何かを言いかけ、男は慌てて受話器を取り直した。
「危うく君との通話を切るところだったよ。それで、どうかした?」
『ねぇ家の鍵は開けておいてちょうだい? 今日出かける時に別のハンドバッグに入れていたのを忘れてしまったの。あなたったらいつもお風呂で動画見てるんですもの。こんな暑い中外で待っていられないわ』
「ん、あぁ。なんだ、そうだったのか」
 玄関口にちらりと目をやる。そこには妻が通販で買い込んだバッグやらコートが何着も掛けられている。だが男にとってはどれも似たような物にしか見えず、妻の衝動買い癖にはうんざりしていた。
 それ見たことか。おおかた自分でも見間違えたのだろう。とはいえ、今それを指摘しては流石に酷だろう、と男は言葉と一緒に飲み込むだけに留めた。
「ああ、分かったよ。玄関の鍵は開けておくから。それじゃあくれぐれも気を付けて」
 妻との電話を終えると、男はタオルを拾い上げ風呂場に向かった。
 防水用のジップロックに携帯を入れ、男は湯船に浸かると同時に動画アプリを起動した。 見始めたのは海外の連続ドラマシリーズだ。一日の疲れをこうして動画を見ながら長風呂で落とすのが彼の日課だった。もっともそのせいで妻と度々言い争うことはあったが、結婚する前からの習慣というのは、なかなかそう変えられるものでもない。
「ふぅー。色々あったせいで少し温くなってしまったな。やはり冬場は暑い風呂でなくては」
 男が追い焚きのボタンを押して再び携帯を手に取ると、ザザッと画面にノイズが走り見ていた動画アプリが急に止まってしまった。
「しまった。中に水が入ったか!?」
 慌ててジップロックを確認したが、破れているわけでもなく、中の携帯は水滴一つ付いていない。しかしどういうわけか、携帯はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「参ったな。まだ買い換えて一年も経っていないというのに。今度からはしっかりした防水のケースを買った方がいいな」
 せっかくの安らぎの時間も潰され、男はたっぷりと肩まで湯に浸かった。早いところ上がって、続きをパソコンから見ようと思ったのだ。
 それでも気になって携帯のボタンを何度か押していると、ウェブアプリだけがかろうじて起動した。
「しめた。動画は諦めてニュースでも見るとしよう」
 男はジップロックの上から画面をなぞり、ニュースサイトのトップページまで指を持って行った。
「明日の天気は、と……良かった。傘は要らなさそうだな。おっ、電車の事故の記事がもう載っているぞ。そんなに大きな事故だったのか。どれどれ」
 しかし、次の瞬間彼は自分の目を疑った。
「なんだ……これは……おい、冗談だろうっ!?」
 携帯が浴槽の蓋に叩き付けられ水しぶきを上げた。
 画面上部に記された記事のタイトルには次のように書かれていた。
『午後十時過ぎ、○×線の快速電車が脱線する事故があり、近くの高圧ガス施設に激突し激しく炎上。ポンプ車など十数台が消火活動にあたるも、乗客乗員の安否は絶望的』
 そしてその下には野次馬が撮ったと思われる、生々しい現場の写真が載っていた。
 怪獣映画の中でしか見たことがないような恐ろしい火柱と、もはや原形を留めていない施設。電車の姿など見る影もない。黒煙が立ちこめ、もはや溶けた鉄の塊と化していた。
「大惨事じゃないか……何がもうすぐ動き出すだ。これじゃあ中の乗客は一溜まりもないだろ――」
 言いかけて、自ら発した言葉の恐ろしさに湯に浸かっているにもかかわらず、ぶるりと身震いした。
 そして、それと同時に先ほどの会話を思い出していた。
 ――ところで妻は。
 妻はそんなに暑がりだったか? いや、どちらかといえば寒がりな方だ。何しろ冬物のコートを何着も買い込むような女だ。この時期はカイロが手放せず、この間一緒に手を繋いで歩いた時なんかはまるで氷のように冷たい手をしていた。
 男は呆然と携帯の記事を眺めていた。記事には今もなおニュースを聞きつけた人々によるレスが、絶えることなく画面を埋めている。
 そんな時、脱衣所の方で物音がした。
 男はハッと我に返ると同時に妻の無事を悟り、思わず肩から脱力した。
「良かった! そうか、一本早い電車に乗っていたんだな? あぁ、無事で本当に良かった!!」
 浴室のドア越しから声が聞こえた。
「わたし、メリーさん。今、あなたの前にいるの」
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