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可愛いアリスには幻想入りをさせろ

深夜のワンドロSS版に挑戦してみました。

アリスが幻想郷へと来る前のお話です。

pixivへ
 
 気が付くとそこは、真っ暗で息苦しいところだった。
 ほのかに甘く懐かしい匂いと、汗臭さとが混じった空間。
 身体の向きはうつ伏せで、ベッドで寝かされていた。息苦しいと思った理由はそれだろう。
 ベッドの上だと分ったのは、身体を横に向けた際、ギシッとスプリングの軋む音がしたからだ。
 いつ頃から寝ていたのか、それは定かではない。ズキズキとこめかみの上辺りが痛む。
 頭はまだはっきりしておらず、ぼんやりとしか考えられそうにない。
 これが寝不足によるものなのか、はたまた寝過ぎによるものなのかを判断するには、やや決定打に欠けていた。

 ――いったいここは何処なの?
 そんな野暮な疑問が頭を突っ付く。
「……っ!?」
 首を動かそうとした瞬間、ズキンッと首の筋に鋭い痛みが走った。
 それと同時にようやく気付く。

 ――あぁ、やっぱり寝過ぎたのかも。

 ジワーっと熱さを帯びていく首筋を抑えながら、ベッドから半身を起こす。
 室内はやけに静かだった。
 風の音もない。
 普段なら廊下で聞こえる召使いたちの下らない愚痴もない。
 あまりに静か過ぎてキーンという耳鳴りがいつまでも響いた。
 唯一聞こえるのは、チッチッチッと動く秒針の音。
 その音を聞いて一気に安堵する。
 枕元に置いてあるお気に入りの時計の、聞き慣れた音だった。
 つまりここは自分の部屋で、単に寝ぼけていただけなのだと唐突に理解する。
 そして同時になんだかつまらないな、と無性に残念な気持ちになった。

 色彩の乏しいこことは違い、青々とした森林。澄み渡る空。
 悪趣味な人工物だらけのこことは違う、見渡すかぎりの緑の大地。
 閉鎖的でどんよりとしたこことは違った、おいしい空気。光溢れるような眩しい世界。
 そんな世界に旅立てたらどんなに素敵なことだろうか。

 ……ばかみたい。

 あるわけ無いと若干冷めつつも、それでもどこかにそんなワクワクするような世界が待っていることを期待している自分がいた。
 辺りが暗いということは、まだ夜が明けていないのだろう。わざわざ時計の針を見るまでもなかった。
 こういう時はもう一度眠ってしまうに限る。
 せめて夢の中だけでもそんな素敵な世界に行ってみたい。
 じっと目を閉じて想像を膨らませる。

『目が覚めたらそこは別世界だった』
『突然異次元に放り込まれた哀れな子羊』

 どんな夢だっていい。ここでの退屈な生活よりはずっとマシなはずだ。
 無理矢理にでも目を閉じて、ぎゅっと口元を縛って意識を枕に預けようとした。

 ――その矢先だった。

 プゥーン

 耳元で明らかに不快と分かる音がした。
 そう、奴だ。
 窓もドアも開いていないはずなのに、どこからともなく現れた睡魔の天敵、モスキート。
 近づいては離れ、しばらく経つとまたやってくる。無視しようとしてもその音だけが気になって、今度は寝ようと集中している精神をかき乱すのだ。
 ドップラー効果とカクテルパーティー効果の双方の影響をもろに受け、居た堪れなさからシーツの外へと腕を伸ばし、頭上をバタバタと扇ぐ。
 それでも蚊は、そんな努力をあざ笑うかのように自由奔放に室内を飛び回り、気を散らしていく。
 いっそのこともう起きてしまおうか。
 そんな衝動にも駆られるが、それはそれでなんだか負けた気分になる。奴を退け、安眠を勝ち取ることこそが真の勝利なのだから。

「……あれ?」
 ふいに蚊の羽音が消えた。
 どこかに行ってしまったのだろうか。それならそれで構わない。とにかく、これで安心して眠りにつける。
 そう思った時だった。
 頬がもぞもぞとこそばゆいではないか。

 ……いる。

 これは間違いなくいる。忌々しい奴め。
 だが、これは奴を仕留める最大のチャンスだ。
 焦るな……でも急げ。
 のんびりしていたら奴は、そのストローみたいな口で刺しにくるだろう。
 刺されたら最後、もう安眠どころの騒ぎじゃなくなってしまう……!
 そろりそろりと持ち上げた手のひらを一撃必殺の武器に変え、そして覚悟を決めて振り下ろした――。

 ピシャンッ!
「あいたーっ!」

 乾いた音が部屋に鳴った。
 空振った一撃は蚊を捕らえることなく、自らの頬に炸裂したのだった。
「どうしたのアリスちゃん!? 大丈夫!」
 どたばたと勢いよく階段を駆け下りてくる足音が聞こえたのは、それからわずか二秒後の出来事だった。
「どうして今のが聞こえるのよ!!」
 吠えるように娘が答えるのと同時にドアが開き、暗い部屋に廊下の光が差し込んだ。
 ドアの前に立つシルエットは、背中から左右三対もの羽を広げた豪快なビジュアルをしていた。
「そりゃあ、アリスちゃんの可愛らしい悲鳴が聞こえたら、たとえ闇の中光の中よ」
「それを言うなら『火の中水の中』でしょ!」
「だって、そんなところに入ったって面白くも何ともないんですもの。じゃあ魔界流のアレンジってことにしましょう。アリスちゃんのためなら魔界中どこだって駆けつけるわよ~」

 ――魔界。
 現世と彼の世のような顕界【けんかい】や冥界といった関係とは一線を画した、もう一つの世界。
 生も死も混ざった自由な世界なので、魔界に冥府は必要ない。
 住人は人間よりも遥かに強く、集団生活を強いられないため、顕界と違って宗教を必要としない。よって神は一人でいい。
 この世界を創造したまさに唯一神。
 アリスが寝ていたのは、そんな魔界の神が住むといわれる城のとある一室だった。
「もう! 娘の悲鳴の一つくらいで大げさなのよ。ママは神様なのよ? お仕事だってもっといっぱいあるはずでしょう?」
「あいたーですって、あいたー。うふふ。ねぇもう一回ママに聞かせて?」
「うっさい!」

 そう。
 こうして今アリスの目の前で、にこにこと微笑みかけている人物こそが、アリスの母親にして魔界の神、神綺その人である。
 ゆったりとした真っ赤なローブの上からケープを羽織り、銀色ロングの片側だけをゴムで縛ったサイドテールが特徴的なヘアースタイル。
 そして先ほど見せていた背中の羽だが、今は綺麗さっぱりなくなっていた。
 本来なら戦闘時に顕出【けんしゅつ】するはずの羽が出てしまったあたり、よほど娘を危惧していたことが伺える。
 が、そんな心配がかえってアリスを苛立たせていた。
「あらあら怒られちゃったわ。でもね、アリスちゃん。夢子ちゃんがとっても頼りになる子だから、ママは殆どお仕事しなくても大助かりなのよねぇ」
「だったらお仕事変わってあげたらいいじゃない……。夢子姉さんここのところずっと働きっぱなしなんでしょ? 知ってる? そういうのパワーハラスメントって言うのよ」
「あらぁ? ずいぶんと難しい言葉知っているのね。アリスちゃんが物知りになってママ嬉しいわ」
「ほんとっ!? ……じゃなくって! ママったら心配しすぎなのよ! 私だってもうすぐ一人前の魔界人になるのよ? いい加減子離れしてよ。そんなんだからユキ姉さんたちも家を出てっちゃったのよ」
「あの子たちはもう立派な魔法を使えるから、ママ何にも心配してないわ。でもアリスちゃんはまだまだお勉強しなきゃ、でしょ?」
「うっ……でもいつか私だって究極の魔法を……!」
 神綺の目には、右の頬に真っ赤なモミジを作り、涙目になりつつも強がる娘の姿が映っていることだろう。
「それで、さっきの悲鳴は何だったのかしら? ひょっとして怖い夢でも見ちゃった? 絵本読んであげましょうか?」
「ちがーう! だから子供扱いしないでってば! これよ、これ!」
 自分で引っぱたいてしまった頬を顎ごと突き出して見せた。
「あら? そんなにほっぺた赤くしちゃって、どうしたのかしら?」
「だから蚊よ! 蚊! もう、五月蠅くて全然眠れないわ! 大体どうして蚊なんているのよ!?」
 アリスやアリスの姉たち、魔界に住む住人は、すべて創造神である神綺が創ったものである。もちろん、小さな魔界虫であっても生物である以上は神綺が生み出したものなのだ。
「嫌っちゃ駄目よ、アリスちゃん。魔界蚊だってちゃんと生きているのよ? ほら言うでしょ? 『一寸の魔界虫にも五分の魂』って」
「絶対言わないもん!」
「あらそう? うふふ、じゃあそれも魔界流アレンジってことで」
 広い袖口で口元を塞ぐように笑みを溢す神綺。その様子はようやく反抗期を迎えた愛娘と、それすら愛おしく思える母親の図そのものだった。

「ところでアリスちゃん。昨日話してた試練を受けたいってお話だけど」
「な、何よ今度は。もう決めたんだもん。私、捨食の魔法を覚えて魔法使いになるの」
 一人前の魔界人になるための試練、それが魔界における成人の儀式であった。一人一人の適正に沿って魔界神である神綺、もしくは本人の希望によって試練の内容が決められる。
 試練をクリアし、神綺に認められれば一人前の魔界人として扱われるようになるのだ。
 アリスの試練とは魔法を自在に使えること、そして魔法使いになるためには捨食の魔法の習得が条件であった。
 食を捨てる。すなわち、食事を取らずに魔力だけをエネルギーにして生きることを可能とする魔法である。
 食事が必要ではないということは、糖分の分解が要らなくなり、脳や筋肉の休息が不要となる。従ってそれらを目的とした睡眠行為自体が無意味なものになるのだ。
 食事や睡眠の時間ですら惜しいと思った研究精神旺盛な魔法使いが、時間の有効活用のため編み出したといわれる魔法であるが、魔界では魔法使いへの入門書として利用されている。
「本当にいいの? 後悔してからじゃ遅いのよ?」
「いいの。私は早く一人前の魔界人になって、姉さんたちに認めてもらいたいの」
「アリスちゃん……アリスちゃんが立派な魔界人なってくれたらママも嬉しいわ」
 目頭を袖で押さえながら神綺は言う。
「そこまで本気ならママも応援しちゃう。アリスちゃんは幻想郷に行くべきよ」
 耳慣れない場所の名前にアリスは首をかしげた。
「幻想郷って……?」
 神綺はうんうんと納得したように頷きながら、
「魔界よりもだいぶ魔法のレベルは田舎なんだけど……その分お勉強には最適な場所よ。そこでアリスちゃんは魔法の腕をしっかりと磨くこと。戻ってきたら捨食の法をじっくりと教えてあげるわ」
「ママ……試練を許可してくれたのは嬉しいけど、急にどうしたの? もしかして私がさっきあんなこと言ったから?」
 一番の末っ子ということもあり、神綺のアリスに対する愛情の注ぎっぷりは、アリスがうんざりするほどだった。
 これまで幾度となく試練の話を持ち出しても、まだ早いの一点張りだった神綺が突然の許可を出したことで、何かあったのではと逆に心配してしまうアリスだった。
「もちろんママだって寂しいわ。本当は後一〇年くらい側にいてあげたいもの。でも『可愛いアリスちゃんには幻想入りをさせろ』ってことわざがあるでしょう?」
「何よそれ。絶対今作ったでしょ」
「じゃあそれも――」
「魔界流アレンジ、でしょ?」
 ようやくアリスが笑みを見せた。
「うふふ。やっぱりアリスちゃんは笑ったお顔が一番ね。とにかく、元気でやってらっしゃい。明日にでも餞別を用意してあげるわ」
「ありがとうママ。私なら大丈夫。きっと魔法を使いこなしてみせるわ」
「さぁ、もう少しだけゆっくりお休みなさい。アリスちゃんが眠るまでママがずっとついててあげるから」
「別にいいのに……でもママがそうしたいって言うのなら側にいてもいいわよ……」
「ふふ。おやすみなさい、アリスちゃん」
「おやすみ……ママ……」
 アリスがまぶたを閉じるとすぐに眠気がやってきた。

 そして次の日の朝、再びアリスが目を覚ますと既に神綺の姿はなく、代わりにベッドの横には二体の人形と一冊の本が置かれていた。
 人形はどちらもアリスと同じブロンズの髪をした人形で、大きな赤いリボンを付けている。一体は青と基調とした洋服、もう一体は真っ赤なワンピース。二体とも白いエプロンをしており、西洋のメイドのような格好をしていた。
 横にあった本は片手で持てないほど大きく、また分厚かった。中は真っ白で、開くと新品の紙特有の匂いがする。
 そしてもう一つ、人形たちの足下に一通の手紙が置いてあった。
「これがママの言っていた餞別……?」
 アリスの思った通り、手紙は神綺からのものだった。そして、手紙には二体の人形のそれぞれの名前が書かれていた。
「えーっとなになに……『今からこの子たちはアリスちゃんのお友達です』ママったらまた私のこと子供扱いして」
 さらに手紙を読み進めていくと、本についての説明が書かれていた。
「『これはThe Grimoire of Alice。文字通りアリスちゃんのための魔本です。この本いっぱいにアリスちゃんの記録を書き綴ってください。いつかそれがあなたの支えとなる日が来るでしょう』何よ。要するに自由帳ってことじゃない」
 手紙の最後にこれから試練を受けるアリスに向けてのメッセージが書かれていた。
「『人形を自在に操れるくらい魔法を使いこなしてみなさい』か……。やってやろうじゃない。二体どころか五体でも一〇体でも操れる魔法使いになってみせるわ」
 アリスはベッドの横の人形たちに向けて魔力を込めていく。
 ゆっくりゆっくりと人形の手が上がり、手前に差し伸べられる。
 その手をアリスはぎゅっと握ると、優しく声を掛けた。
「これからよろしくね、上海、蓬莱」

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